400年の時を刻んだ岩村城下町をぶらり旅

迫力ある石垣が残り、日本三大山城の一つである恵那市の岩村城。ふもとの城下町は当時の面影を残し、五平餅や和菓子店など、古くから親しまれるお店が並び、「女城主の里」としても知られます。
この城下町に店を構えて235年、名酒を生み出す老舗酒蔵「岩村醸造」の7代目・渡會充晃さんを訪ね、岩村の魅力と歩き方を聞きました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人
渡會充晃(わたらい・みつてる)さん
1787年創業の「岩村醸造」7代目当主。「賞のためだけでない、普段からおいしく飲める酒づくりを」としながら、全国新酒鑑評会で過去数度の金賞受賞。2021年にはフランスのソムリエが審査する日本酒コンクール「Kura Master」純米大吟醸部門でプラチナ賞受賞。
400年の時を刻んだ岩村城下町をぶらり旅

旧家が残るほっこりとあたたかい城下町

明知鉄道「岩村駅」から岩村城跡に向かって、なだらかに登っていく岩村本通り。両側には江戸時代に栄えた旧家が立ち並びます。ぬくもりのある家屋の軒先には青いのれんが揺れ、どこかかわいらしいレトロな看板があちこちで見られます。

渡會さんは、この町並みの魅力を「過度に作りすぎていないところ」と話します。生活のあたたかさも感じられる、ほっこりとしたまちです。

2018年の連続テレビ小説「半分、青い。」のロケ地にもなったことでも話題となりました。

約4万個の石で築かれた圧巻の石垣「岩村城」

  • 写真提供:岐阜新聞

本通りを登った先にある岩村城跡は、ファンでなくても“圧巻”と言わせてしまう山城。最大の魅力は、天然の地形を巧みに利用し、築き上げた壮大な石垣。急峻な山道に、壁のようにそそり立つ石垣が累々と続きます。その総延長は1.7キロメートル、使われている石の数はなんと約4万個とか。迫力あるその姿は、美しさをも感じさせます。

ひな壇状に築かれた「六段壁」は、本丸へ向かう出入り口。「攻守の要」です。本丸の近くまで車で行けますが、この石垣を体感するには歴史資料館のあるふもとから、城攻めをする気持ちで登るのがおすすめ。城を舞台に戦った人びと、数百年前にこの石を積んだ人びとに、思わず感嘆してしまいます。


戦乱に揉まれた女城主

岩村城は、鎌倉時代の1185年に開城されてから、明治維新が起きて1873年に廃城令が出されるまで、実に700年にもわたってこの場所に存続しました。

戦乱期には、度々織田と武田の勢力争いの舞台に。信長の叔母で城主の妻だったおつやの方は、城主が病死したあと、幼い後継ぎの代わりに領地を治めました。領民を守る善政をしいて慕われますが、激しい戦乱の波に翻弄され、最期は信長によって磔(はりつけ)の刑に処されるという、非業の死を遂げます。

岩村城下町に構える店の軒先に揺れる青いのれんには、この女城主にちなんで、それぞれの女将の名前が刻まれています。

地元の米と水からできる名酒「女城主」

渡會さんが7代目を務める「岩村醸造」では、「女城主」という銘柄の地酒があります。やさしい酸味と甘み、ぼやけない味と香りを兼ね備えた酒は高く評価され、国内外で数々の賞を受賞しています。

「使っているのは、約400年前に掘った井戸の水。とても純度が高い水で、おいしいです。米もこの水で育った地元のもの。だから『地酒』なんですよね」。

ここ岩村は、豊富な地下水に恵まれています。岩村城が攻められ、籠城に追い込まれたときも、城内に井戸が17カ所もあったおかげで、水に困ることはなかったといいます。

「酒造には当主の名字が付くことが多いけど、この地でうまい酒を造らせていただけている感謝と誇りがある。だから『岩村』と名乗るほうが、しっくりきます」。

トロッコを使った “うなぎの寝床”の酒蔵

店に入ると、色とりどりに輝く数種類の酒がずらりと並んだカウンターが。奥にはなにやらレールがまっすぐに伸びています。

「昔は間口税といって、入り口の広さで税が決まっていたので、入り口が狭くて奥に長い。米や水を運ぶのが大変なので、100メートルにわたってレールを敷き、トロッコを使って奥まで運んでいました」。   

レールをたどると、入り口の大きさでは想像のつかないほど奥へ奥へと進んでいきます。今では使われていませんが、渡會さんが子どものときまで使われていたそうです。

大火の後、水と坂がある城下町へ

「400年前の城下町はここではなく、1989年に国土問題研究会によって『日本一の農村景観』に選ばれた富田地区にあったそうですが、大火で焼けてしまい、坂道になっていて常に水を流せる今の場所に移したそうです」。その名残で、今も旧家の中庭には「疎水(そすい)」が残っています。

また、岩村城と城下町には最近もう一つ大きな発見があったとか。

「夏至の日に城から城下町を見ると、本通りに夕陽が沈み、夕焼けの光が見事に道に照らされる。これが偶然なのか、計算によるものなのかは、わかっていません」。

城下町で郷土菓子を食べ歩き

  • 写真提供:岐阜新聞

城下町は全長約1.3キロメートル。歩いてぶらぶらするにはぴったりです。東濃地域の名物・五平餅を売るお店も数店舗あり、それぞれ形やたれの味などが違います。また、岩村藩の御殿医が長崎で学んだポルトガル伝来の「カステーラ」は、素朴でほっとする味とやわらかさ。ありそうでない、ここだけの味です。地元の人にも人気の「かんから餅」も外せません。

岩村醸造の「甘酒ソフト」もやさしい甘さで旅の疲れを癒します。「車で来た人や、お子さまはぜひ」と渡會さん。


江戸の建物から伝わる往時の暮らし

より歴史を感じたい方は、江戸時代に栄えた商家「勝川家」や問屋「木村邸」などがおすすめ。江戸時代の様式を持った建物からは、往時の暮らしや城下町の歴史を感じられます。

木村邸の裏通りへ回ると、大名屋敷や城壁の外壁にも見られる土壁「なまこ壁」が。木村邸は藩が財政難になるたびに御用金を用意して藩を救ったとされます。藩主が出入りした玄関や武者窓なども残ります。

城下町近くに無料の駐車場があるので、気軽に訪れるリピーターの方も多いといいます。

車窓の景色に癒されるローカルな旅

  • 写真提供:恵那市観光協会

ローカル線の「明知鉄道」に乗って、車窓から見える自然豊かな景色を眺め、恵那の見所をめぐるのもまた、ゆったりと癒される旅になります。JRとつながる恵那駅から岩村駅までは約30分。その先には寒天の生産で有名な山岡駅、大正ロマンを存分に味わえる「日本大正村」がある終点の明智駅と続きます。

岩村城のふもとから、無限に広がる恵那の旅。自分ならではの楽しみ方を見つけ、ひと味もふた味も味わってみては。

旅のメモ

おんな城主が暮らし愛した「岩村城」

「おんな城主(おつや)」が暮らした岩村城は、現在も総延長 1.7 kmに渡る壮大な石垣が当時の面影を伝えています。

おんな城主が暮らし愛した「岩村城」