薬草、草木染…息づく「春日の宝」を体験

在来種のお茶が栽培され、「薬草の宝庫」として知られる春日(かすが)では、薬草を使った暮らしが今も日常として息づいています。
そんな暮らしを垣間見ることができるのが、「麻処さあさ」の田口寿子さんが企画する薬草の草木染体験です。田口さんは昔から受け継がれる住民たちの生活の知恵に感銘を受けて移住を決意した人。散策しながら春日の魅力をたっぷり教えてもらいました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

田口寿子さん
薬草文化の根づいた春日に魅了されて移住。麻を使った手作りの衣類や小物を販売する「麻処さあさ」を夫婦で営む。草木染の体験やゲストハウスを運営する。
薬草、草木染…息づく「春日の宝」を体験

お茶と薬草に囲まれる山あいの集落

「薬草の宝庫」として知られる揖斐郡揖斐川町春日。断崖絶壁が続く山の尾根に沿って集落がつくられており、急峻な地形を活かした段々畑には、日本でも希少な在来種のお茶が昔から栽培されてきました。標高300メートルの高地で栽培されることから、「天空の茶畑」とも呼ばれます。

薬草のある暮らしにあふれる住民の知恵

春日でも、平地が多い方だと言われる美束(みつか)地区に、薬草を使った草木染の体験ができる工房「麻処さあさ」があります。17年前に岐阜市内に住んでいた田口寿子さんは、草木染の仕事をきっかけに春日に訪れた時、当たり前のように薬草のある暮らしを昔から続けている住民の姿に感銘を受け移住を決断しました。

「生活の知恵や技がすごいんです。本や教える人がいるわけではなく、昔から住民たちの間で受け継がれてきた薬草文化が、何代にもわたって根付いているんです」と田口さん。

ヨモギの青々とした香りで爽やかに

草木染の体験では、ヨモギとクチナシで手ぬぐいと手さげ袋を染めました。どちらも近所で採れた薬草です。ヨモギは根から抜かずに、葉だけを摘みます。手にはヨモギの青々とした香りがほのかに残り、爽やかな気持ちになります。

草木染は、材料となる草や実を沸騰した湯で煮だして色を出し、その湯に布を入れて染めます。模様はゴムを縛ったり、洗濯ばさみでつまんだりして色が染まらない部分を作る、手軽な「絞り染」。

四季折々の色で染まる草木染

ヨモギで染めた布は、薄く淡い黄色に。ナツメグで染めた布は、鮮やかな山吹色になりました。

「季節によっても染まる色は違います。新緑のヨモギだと、もっと緑がかった若竹色になりますよ」。

四季折々の自然の色を楽しめるのも草木染の魅力。新緑の5月になると薬草が一気に増えるといいます。

「家の近所やこの地区だけでも、30種類ぐらいあると思います」と田口さん。

畑や草むら、田んぼのあぜ道に薬草が青々と生い茂り、住民たちが楽しそうに薬草を摘む姿が想像できます。

神様への感謝の舞「太鼓踊り」

春日に受け継がれているのは薬草文化だけではありません。神様に感謝と五穀豊穣を願い、毎年11月に神社で行われる「鎌倉太鼓踊り」は、春日の5地区に伝わる「太鼓踊り」(岐阜県重要無形民俗文化財)の一つ。色鮮やかな笠と衣装に身を包み、太鼓を打ちながら踊りを舞います。

住民みんなで受け継ぐ祭り文化

散策途中で出会った市川哲さん(88歳)は、踊り子が履く草鞋(わらじ)を1人で15足ほど作る太鼓踊りの立役者。「子どもはすぐに成長しちゃうんだよね」と笑います。

踊り子は「神花(しんはな)」と呼ばれ、小学5、6年生の子どもたちが毎年おみくじで選ばれますが、人口減少の今では、大人も参加。笠も衣装も昔から地元の男衆で作るのが伝統で、祭りが近づくと準備のため出身者が帰ってきます。

自然と共存する「生きる力」にあふれた場所

「山奥で何もない場所だと思って生きるのと、薬草や野菜、米、水、ここなら何でもあると感じて生きるのは大違い。ここではライフラインが止まっても生きていける」と田口さん。

自然と共存し、創意工夫をしながら身近にあるものを使って生活する昔ながらの暮らしに「生きる力」があふれている、と目を輝かせます。

「麻処さあさ」はゲストハウスとして、宿泊することもできます。

薬草と暮らす春日の日常に心をあずけて

軒先に薬草が干してある風景が当たり前。お風呂に入れたり、煎じて飲んだり、草木染に使ったりと、昔のままの薬草文化が日常の暮らしに残る春日。

山に囲まれた美しい風景を眺め、四季を感じながら草木染を楽しみ、夜は地元の野菜や米で食事をいただく。そんなゆったりとした旅に、心が癒されます。

旅のメモ

薬草をふんだんに使った薬草風呂や健康を考えた薬膳料理が楽しめる「かすがモリモリ村リフレッシュ館」で薬草のある生活を過ごしてみてはいかがでしょうか。