レールマウンテンバイクで温故知新の旅
そんな廃線したレールをマウンテンバイクで走る「ガッタンゴー」は、神岡の豊かな自然も、どこか懐かしいレトロな町並みも楽しめるアクティビティ。運営事務局の田口由加子さんは、明るい笑顔で"古くて新しい町"の魅力を語ってくれました。
<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>
訪ねた人:田口由加子さん
「レールマウンテンバイク Gattan Go!!(ガッタンゴー)」を運営するNPO法人神岡・まちづくりネットワーク事務局を担当。レールマウンテンバイクの開業には立ち上げから専属スタッフとして携わる。
マウンテンバイクで大自然に囲まれた線路を駆け抜ける
ガッタン、ゴットン―。
廃線となった今もなお、音を響かせる線路があります。走っているのは、列車ではなくマウンテンバイク。両脇のレールに取り付けられたマウンテンバイクにまたがり、敷かれたレールのまま漕いでいきます。レールのつなぎ目で体にダイレクトに伝わる振動。目の前に現れたトンネルに飛び込むと、暗闇とひんやりした空気に包まれ、天井からは地下水がしたたり落ちてきます。急に視界が開けたと思うと、眼下にはエメラルドグリーンの清流と白い岩々の渓谷が広がる橋の上。四季によって移ろいを変える広葉樹の山々に囲まれながら、前から吹く風を肌で受け止めます。
廃線の線路が見事に復帰
飛騨市神岡町の新感覚アクティビティ「レールマウンテンバイク Gattan Go!!(ガッタンゴー)」。かつて鉱山で栄えたこの町で、廃線となった神岡鉄道(通称「神鉄」)は、今も各地から人びとが集まる、“現役”の線路として見事な復帰を果たしていました。
「変な町ですよ」と明るく笑うのは、生まれも育ちも神岡の田口由加子さん。ガッタンゴーの初期から携わるスタッフの一人です。古くも新しい、暗くも明るい神岡の町。その “カオス”のような雰囲気は、神岡を特別な場所へと築きました。
過去と最先端が隣り合う町、飛騨市神岡
飛騨市神岡町は、鉱山の開発によって明治から昭和の間に目覚ましく発展。ひしめき合うように民家や商店が立ち並んで賑わいを見せ、花街もできました。時代の変遷とともにその栄華は徐々に静まりますが、今も異様に増築された家屋が高原川沿いにたたずみ、遊郭跡「深山邸」も当時のままの姿を残します。一方、ノーベル賞を受賞したニュートリノの観測装置「スーパーカミオカンデ」では、最先端の宇宙科学研究が着々と進んでいるという、過去と未来が混在する不思議な町です。
線路のある日常を残したい。有志たちが試行錯誤
「鉱山開発で栄えた当時、神岡鉄道は貨物輸送として活躍しましたが、輸送手段がトラックに替わって、2006年に廃線。その時『線路のある日常を神岡に残したい』と強く願った人たちがいたんです」。
有志の一人は、自身がサイパン旅行で体験した線路上を走るサイクリングツアーを再現できないかと考えました。賛同した地元の鉄工所が、マウンテンバイクを安全に線路と固定する器具を、試行錯誤して制作。レールマウンテンバイクは今でこそ全国に数カ所ありますが、同形態のものはすべて神岡が技術提供をしています。
大災害から町を守った伝説の線路をレジャーへ
「神鉄には伝説があるんですよ。1981年(昭和56年)の豪雪災害(通称56豪雪)で、町とをつなぐ国道41号線が1ヶ月近く封鎖した。山深い飛騨地域の多くの町は閉ざされたけど、神鉄(当時は国鉄神岡線)はトンネルが多かったおかげで動き続け、生活も産業も止まらなかった。当時働き盛りだった地元の青年たちは、神岡鉄道への誇りと感謝が強かったんです」。
何もなければ撤去されたはずの線路は、神岡に人を呼び込むレジャーとして再出発を果たしました。
乗客とともに進化していくガッタンゴー
ガッタンゴーは手作りならではの進化を続けてきました。まだSNSもないころ、自転車で線路を走る、という奇想天外さが注目を集め、以来全国から多くの問い合わせが。
「赤ちゃんは乗れますか?」「ペットと乗りたい!」「車椅子ですが乗れますか?」「家族みんなで一緒に走りたい!」
…無謀と思える要望にも、なんとか応えられないかとやってのけるのが神岡の根性なのか、補助席やサイドカーなどを付けて幅広いお客さんに対応できるようになりました。
”この線路は生きている”
廃線マニアのカメラマンは、いつしか神岡へ来なくなりました。久々にイベントで顔を見せたとき、田口さんは聞きました。
「最近来られていませんでしたよね。お元気でしたか?」
カメラマンは答えました。
「もうここは撮らないよ。だってこの線路、生きてるもん」。
線路は再び乗客を乗せて、今日も「ガッタン、ゴットン」と生き生きとした音を立てています。
旅のメモ
初心者やご家族でも楽しめる「レールマウンテンバイク Gattan Go!! -まちなかコース-」で線路の上を駆け抜けてみませんか。