色彩豊かなモザイクタイルのアクセサリー
かつて日本はヨーロッパやアメリカなど海外にも多くのモザイクタイルを輸出していました。現在でもその国内生産量トップの町が、岐阜県多治見市です。
近ごろ下火になっていたモザイクタイルを、アクセサリーという新しい発想で再び人気にした「七窯社」。担当の森日香留さんに、タイルの魅力や見どころについて話を聞きました。
<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>
訪ねた人:森 日香留さん
タイルアクセサリーブランド「七窯社」の広報やイベントを担当。体験コンテンツや新商品の企画に携わり、県内外での販売イベントでは自らタイルの魅力を消費者に伝え発信している。
見た目が美しい、それが一番の魅力
多治見市高田町の民家が立ち並ぶ小高い丘に、モザイクタイルを使ったアクセサリーのお店「七窯社」があります。店内には、壁一面に色とりどりのピアスやイヤリングがずらりと並び、釉薬(ゆうやく)がアクセサリーをつややかに光らせています。
国内生産量日本一の美濃焼の町で、タイルの新しい魅力を発信している七窯社。アクセサリーを作り始めたのは2013年、タイルの需要が減ってきたと感じていた時と森さんは振り返ります。
「改めてタイルの魅力って何かを掘り下げて考えた時期でした。たどり着いた答えは、やっぱりタイルは見た目のきれいさが一番の魅力ということです。ちょうどその頃、インターンで来ていた学生に、タイルで新商品を作るとしたら何がいいかアイデアを出してもらっていました。そのときに出てきたのがアクセサリーです」。
厚さ1.8ミリ、タイルの常識を覆したアクセサリーの誕生
「こだわったのは厚さです。弊社で作っている建材用のタイル厚みが7ミリ前後なのですが、耳につけるとどうしても重たい印象になってしまいます」。
何度も試行錯誤を重ねて生み出したのは、厚さ1.8ミリの薄くて軽いタイルでした。やっとできたタイルのアクセサリーですが、当初はタイルを耳につけるという突拍子もないアイデアに、同業者からは「大丈夫か?」との声も。
「誰も考えないことだったし、周囲は半信半疑だったと思います」。
しかし、そのアイデアは見事ヒット。翌年には地元の若手陶芸作家とコラボした商品も生み出しました。
タイルに絵付け、アクセサリー作り体験
「同じデザインだけど、一人ひとり違う作品になるんです」。
七窯社では、ピアスやイヤリング・ヘアアクセサリーなどから1つ選び、タイルに絵付けができる体験があります。ピアスやイヤリングは、初心者でも挑戦しやすいデザイン。淡い水色のグラデーションに赤い花がモチーフとなったデザインは涼し気で人気です。細い筆を使って土台となるタイルに色を着け、針で柄を入れます。
「作業自体は単純ですが細かい仕事なので、皆さま集中して楽しんでいます」。
アクセサリー作りには工場見学もセットになっており、粉末状の粘土をプレス機にかけて成形する様子も見ることができます。
マンションブームによる衰退
「七窯社はもともとタイルの卸売をしていました。初代の代表は東京にまでタイルを売りに行ったそうです」。
昭和50年~60年頃まで、モザイクタイルは風呂や床、インテリアなど生活の幅広い分野に取り入れられており、色とりどりに組み合わせられるタイルは西洋のスタイルを取り入れた豊かさの象徴でもありました。
ところが、昭和80年頃からのマンションブームに伴いユニットバスが登場、床も統一した素材やデザインで建てられるようになります。
「2代目の時に鈴研.陶業という会社を立ち上げ、マンションなど建物の外壁の角に使用するL字型の建築資材の製造を始めます。現在も製造していますが、法改正によってタイルはメンテナンスが必要になったこともあり、需要が低下してきています。そこで3代目の現社長がタイルで何か新しい商品を作れないか考えたのです」。
タイル生産量日本一の町にあるモザイクタイルのミュージアム
「タイルのことを知りたいなら、是非」と森さんに勧められたのが、七窯社がある多治見市高田町から車で約20分のところにある「多治見市モザイクタイルミュージアム」。モザイクタイルの生産量日本一の多治見市笠原町に、2016年にオープンしました。
「モザイクタイルの歴史もわかるし、昔使われていたタイルの風呂や壁画が見られます」と森さん。
モザイクタイルミュージアムはその外観が特徴的で、多くの人を魅了しています。設計は世界的な建築家、藤森照信氏。山のようなデザインは、タイルの原料が採れる粘土山を表現しています。モザイクタイルの生産が多かったころの笠原町には、あちらこちらに粘土山があったそうです。
町全体でモザイクタイルを盛り上げる
「モザイクタイルミュージアムから、徒歩5分ぐらいの場所に、モザイクタイル型のクッキーを作っているお菓子屋『陶勝軒』があります」。
色とりどりのカラフルなクッキーは観光客がお土産に買って帰るケースが多いとか。お店の入り口には、紺色や水色などブルー系統の色で組み合わせたモザイクタイルのベンチがあり、フォトスポットにもなっています。
他にもぶらりと辺りを散策していると、いろんな場所でモザイクタイルの看板や装飾に気付きます。町全体でモザイクタイルを発信しようという意気込みを感じさせられます。
来店客と作ったタイルの本棚
森さんのもう一つのおすすめが、JR多治見駅の南口から徒歩10分程度のところにある「ながせ商店街」の「ひらく本屋」。
「古いビルをリノベーションした複合施設『ヒラクビル』にある本屋で、2階には来店客とともに完成させたタイルで装飾した本棚があるんです。同じビルの中にあるカフェで、ゆっくりすることもできますよ」。
本屋を訪れると、窓から差す光で、キラキラとタイルが輝く本棚がありました。
「多治見市内を散策すると、私たちのアクセサリーを含め、壁画やお店のインテリアなど、いろんな場所でモザイクタイルに出合うことができます。地場産業をしっかりと受け継ぎ発信していきたいという地域の熱い思いを感じて、これからも頑張ろうという明るい気持ちになります」。
旅のメモ
世界にひとつだけのモザイクタイルアクセサリー
七窯社では生素地に絵付けをして、やきものの窯で焼成する、オリジナルのモザイクタイルアクセサリーを作ることができます。