雪解けの絶景・ドラゴンアイを目指して。濁河温泉から「御嶽山」へ日帰り登山体験記
- 土庄雄平
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雪解けの時期に見られる「ドラゴンアイ」
「ドラゴンアイ」とは、高山の山頂近くにある池で確認される自然現象です。コバルトブルー色を放つ雪解け水の真ん中に、丸く残った雪が竜の目のように見えることからこう呼ばれています。
メジャーなものは、御嶽山(三ノ池)と岩手県・秋田県にまたがる八幡平(鏡沼)の2例しか確認されておらず、極めて希少な自然現象と言えるでしょう。
八幡平は観光で訪れることが可能ですが、御嶽山は往復6時間ほど登山をしなければ辿り着けない場所にあり、登山愛好家が一度は訪れてみたい絶景スポットになっています。
「御嶽パノラマライン」でアクセス
御嶽山ドラゴンアイが見られるポイントは「三ノ池」で、最もアプローチしやすいのが小坂口(濁河温泉)ルートです。濁河温泉までは、国道41号線の飛騨小坂(ひだおさか)から県道441号線(御嶽パノラマライン)を使ってアクセスするのが定番!飛騨小坂から濁河温泉までの距離は約38km、車で約55分ほどです。
途中、大平御嶽展望台を通過します。ダイナミックな山麓をはぐくむ雄大な御嶽山を一望できるほか、御嶽山の噴火により流出した、長さ日本一の溶岩流の跡も見応えがありますよ。
御嶽パノラマラインの終点、登山口のそばに登山者用駐車場(約40台)がありますが、シーズンにはすぐいっぱいになるので、その場合は登山口から徒歩20分弱の濁河温泉 市営駐車場(約70台)を利用しましょう。
雄大な御嶽山麓を感じる。原生林を進む前半
前半は、苔むした手付かずの原生林のなかを進んでいきます。道もなだらかで歩きやすく、ところどころ巨大な岩を掴むように、根を張り巡らせている大樹の姿が印象的です。火山噴火の後に、種が岩の上に落ち、森が育まれたことがよく分かります。
実は濁河温泉登山口は、かつての御嶽山6合目付近。御嶽山の旧1合目は、20km弱離れた小坂の滝めぐりのコース内にあります。御嶽パノラマラインが開通するまでは、いかに御嶽山の登山道が長く険しく、果てしないスケールの道だったか物語っていると言えるでしょう。
スタートから約1時間40分ほどで、8合目手前の「のぞき岩避難小屋」へ。これまで展望のなかった登山道の中で、はじめてパノラマが開けるポイントです。避難小屋の横の岩からは、そびえ立つ御嶽山を一望できます。「いつの間にか山頂を近く感じられる場所まで来たのか!?」と達成感を感じられるはず。
山上の世界へ。残雪模様の山肌が美しい後半
8合目を越えると、しばらくは傾斜のある登りが続いていきますが、山肌のトラバース(山の斜面を横方向に移動すること)区間に入ったら、ゴールが近くなってきた証。進むごとに迫力を増す、標高3,000m峰の姿に引き込まれながら、マイペースで進んでいきましょう。
山の麓には雪がない5月下旬〜6月上旬でも、標高3,000m近くの高さになると、所々雪が残っています。中でも、雪の上を横切る区間は注意が必要です。不安な方は、アイゼン(雪や氷の上を歩くときに靴底につける爪状の道具)を持参すると安心でしょう。
トラバース区間を登り終え、「五の池小屋」へ。御嶽山頂の周辺にある山小屋の一つで、ドラゴンアイが見頃を迎えるシーズンには多くの登山愛好家で賑わっています。五の池小屋の隣には「飛騨頂上(標高2,811m)」の山頂があるので、ぜひ立ち寄ってピークハント(山頂を踏むこと)しておきましょう。
三ノ池に広がる神秘の絶景「ドラゴンアイ」
五ノ池小屋を過ぎると、御嶽山最大の池である「三ノ池」を一望できます。この三ノ池こそ、今回の目的地です。5月下旬〜6月上旬には、池の中央に雪が残り、周囲はコバルトブルーの水面が溶け出す、神秘的なドラゴンアイに出会えます。
少しずつ割れた雪塊が一つひとつ沈下し、その場所から美しい水色に染まっていく光景は、言葉にできない美しさです。三ノ池には一周の登山道が整備されており、ドラゴンアイの周囲を歩くこともできます。
五の池小屋を過ぎて、もう少し登山道を歩いていくと、ドラゴンアイを上から見下ろすことができます。御嶽山周辺に広がる雄大な山麓や、向こう側にそびえる日本アルプスの山並みなど、いかに隔絶したロケーションで龍の瞳が輝いているかが分かるでしょう。
麓では初夏を迎える頃でも、御嶽山上では雪解けのシーズン。標高差を移動するため、四季の狭間を旅できるのも登山の醍醐味ですね!
御嶽山上を一望する「摩利支天山」へ登頂
三ノ池(御嶽山ドラゴンアイ)で折り返しても良いですが、せっかくならもう一つメジャーな山頂を踏みたいところ。そこで筆者は、摩利支天山(まりしてんざん、標高2,959m)を目指すことにしました。
御嶽山の主峰・剣ヶ峰(けんがみね、標高3,067m)や王滝頂上(標高2,936m)は、2014年の痛ましい火山噴火のあと、登山規制が一時緩和された時以外は、立ち入り禁止となっています。登頂できるのは、飛騨頂上、摩利支天山、継子岳(ままこだけ、標高2,859m)の3座だけです。
摩利支天乗越という分岐を過ぎると、火山らしいゴツゴツとした岩稜帯が続いていきます。左手に目をやると、残雪と火山地形が織りなす、荒々しくも神秘的な御嶽山上の世界が広がっていました。この時期しか見られないゼブラ色の山体に目を奪われます。
そして少しスリリングな稜線をつたって山頂へ。途中、どこが正規ルートか分からなくなり、残雪の方へ行ってしまう可能性がありますが、そのまま進むと滑落のリスクが上がるので注意が必要です。
登山スタートから約5時間、御嶽山ドラゴンアイを眺めて、標高約3,000mのいただきに登頂!感動の御嶽登山になりました。
原生林に湧く「濁河温泉 市営露天風呂」へ
下山後に濁河温泉へ浸かれるという楽しみも、小坂口(濁河温泉)ルートで御嶽山を目指す魅力の一つ。定番は、登山口から車ですぐの場所にある「濁河温泉 市営露天風呂」です。
露天風呂のみの浴槽はかなり広く、泉質は三大美人泉質の一つに数えられる炭酸水素塩泉 (ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉)で、ドバドバと源泉掛け流しで供給されています。原生林に囲まれる非日常なロケーションで、泉質抜群のお湯で癒されることができますよ。
いかがでしょうか?やや玄人向きの内容だったかもしれませんが、龍の瞳が開眼する5月下旬〜6月上旬に、ぜひ御嶽山登山を計画してみてください!