地元レポーター発!旅のコラム

雪解けの絶景・ドラゴンアイを目指して。濁河温泉から「御嶽山」へ日帰り登山体験記

土庄雄平
土庄雄平
投稿日;
岐阜県と長野県にまたがる「御嶽山(おんたけさん、標高3,067m)」。火山としては富士山に次いで標高が高く、日本百名山の一つに選ばれている秀峰です。夏から秋にかけて多くの登山者で賑わいますが、山が雪解けを迎える5月下旬〜6月上旬にだけ、「ドラゴンアイ」と呼ばれる絶景が見られるのはご存知でしょうか?今回は、濁河(にごりご)温泉からドラゴンアイを目指した日帰り登山体験記をお届けします。

雪解けの時期に見られる「ドラゴンアイ」

  • 御嶽山ドラゴンアイ(三ノ池)

「ドラゴンアイ」とは、高山の山頂近くにある池で確認される自然現象です。コバルトブルー色を放つ雪解け水の真ん中に、丸く残った雪が竜の目のように見えることからこう呼ばれています。


メジャーなものは、御嶽山(三ノ池)と岩手県・秋田県にまたがる八幡平(鏡沼)の2例しか確認されておらず、極めて希少な自然現象と言えるでしょう。


八幡平は観光で訪れることが可能ですが、御嶽山は往復6時間ほど登山をしなければ辿り着けない場所にあり、登山愛好家が一度は訪れてみたい絶景スポットになっています。

「御嶽パノラマライン」でアクセス

  • 展望台の先には雄大な山体
  • モノクロ撮影が絵になる御嶽山

御嶽山ドラゴンアイが見られるポイントは「三ノ池」で、最もアプローチしやすいのが小坂口(濁河温泉)ルートです。濁河温泉までは、国道41号線の飛騨小坂(ひだおさか)から県道441号線(御嶽パノラマライン)を使ってアクセスするのが定番!飛騨小坂から濁河温泉までの距離は約38km、車で約55分ほどです。


途中、大平御嶽展望台を通過します。ダイナミックな山麓をはぐくむ雄大な御嶽山を一望できるほか、御嶽山の噴火により流出した、長さ日本一の溶岩流の跡も見応えがありますよ。

  • 林道終点の登山口

御嶽パノラマラインの終点、登山口のそばに登山者用駐車場(約40台)がありますが、シーズンにはすぐいっぱいになるので、その場合は登山口から徒歩20分弱の濁河温泉 市営駐車場(約70台)を利用しましょう。

雄大な御嶽山麓を感じる。原生林を進む前半

  • 巨石の上に立つ大樹
  • 照らし出される苔
  • 悠久の自然を思わせる道

前半は、苔むした手付かずの原生林のなかを進んでいきます。道もなだらかで歩きやすく、ところどころ巨大な岩を掴むように、根を張り巡らせている大樹の姿が印象的です。火山噴火の後に、種が岩の上に落ち、森が育まれたことがよく分かります。

  • 御嶽山のスケールを感じる登山道
  • かつての古道の趣が漂う
  • 御嶽旧1合目(今回の登山道とは別の場所)

実は濁河温泉登山口は、かつての御嶽山6合目付近。御嶽山の旧1合目は、20km弱離れた小坂の滝めぐりのコース内にあります。御嶽パノラマラインが開通するまでは、いかに御嶽山の登山道が長く険しく、果てしないスケールの道だったか物語っていると言えるでしょう。

  • のぞき岩避難小屋から見る御嶽山

スタートから約1時間40分ほどで、8合目手前の「のぞき岩避難小屋」へ。これまで展望のなかった登山道の中で、はじめてパノラマが開けるポイントです。避難小屋の横の岩からは、そびえ立つ御嶽山を一望できます。「いつの間にか山頂を近く感じられる場所まで来たのか!?」と達成感を感じられるはず。

山上の世界へ。残雪模様の山肌が美しい後半

  • 残雪と山肌が織りなす芸術
  • パノラマ抜群のトラバース
  • 振り返ればスタートの濁河温泉

8合目を越えると、しばらくは傾斜のある登りが続いていきますが、山肌のトラバース(山の斜面を横方向に移動すること)区間に入ったら、ゴールが近くなってきた証。進むごとに迫力を増す、標高3,000m峰の姿に引き込まれながら、マイペースで進んでいきましょう。

  • 残雪の上を歩くときは要注意

山の麓には雪がない5月下旬〜6月上旬でも、標高3,000m近くの高さになると、所々雪が残っています。中でも、雪の上を横切る区間は注意が必要です。不安な方は、アイゼン(雪や氷の上を歩くときに靴底につける爪状の道具)を持参すると安心でしょう。

  • 五の池小屋と飛騨頂上

トラバース区間を登り終え、「五の池小屋」へ。御嶽山頂の周辺にある山小屋の一つで、ドラゴンアイが見頃を迎えるシーズンには多くの登山愛好家で賑わっています。五の池小屋の隣には「飛騨頂上(標高2,811m)」の山頂があるので、ぜひ立ち寄ってピークハント(山頂を踏むこと)しておきましょう。

三ノ池に広がる神秘の絶景「ドラゴンアイ」

  • 御嶽山に輝くドラゴンアイ
  • この瞬間も溶け出す瞳

五ノ池小屋を過ぎると、御嶽山最大の池である「三ノ池」を一望できます。この三ノ池こそ、今回の目的地です。5月下旬〜6月上旬には、池の中央に雪が残り、周囲はコバルトブルーの水面が溶け出す、神秘的なドラゴンアイに出会えます。


少しずつ割れた雪塊が一つひとつ沈下し、その場所から美しい水色に染まっていく光景は、言葉にできない美しさです。三ノ池には一周の登山道が整備されており、ドラゴンアイの周囲を歩くこともできます。

  • ドラゴンアイを見下ろす

五の池小屋を過ぎて、もう少し登山道を歩いていくと、ドラゴンアイを上から見下ろすことができます。御嶽山周辺に広がる雄大な山麓や、向こう側にそびえる日本アルプスの山並みなど、いかに隔絶したロケーションで龍の瞳が輝いているかが分かるでしょう。


麓では初夏を迎える頃でも、御嶽山上では雪解けのシーズン。標高差を移動するため、四季の狭間を旅できるのも登山の醍醐味ですね!

御嶽山上を一望する「摩利支天山」へ登頂

  • 五の池小屋をあとにして、さらに先へ
  • 目指すは摩利支天山

三ノ池(御嶽山ドラゴンアイ)で折り返しても良いですが、せっかくならもう一つメジャーな山頂を踏みたいところ。そこで筆者は、摩利支天山(まりしてんざん、標高2,959m)を目指すことにしました。


御嶽山の主峰・剣ヶ峰(けんがみね、標高3,067m)や王滝頂上(標高2,936m)は、2014年の痛ましい火山噴火のあと、登山規制が一時緩和された時以外は、立ち入り禁止となっています。登頂できるのは、飛騨頂上、摩利支天山、継子岳(ままこだけ、標高2,859m)の3座だけです。

  • 残雪と火山地形の共演
  • ラストはスリリングな岩場歩き
  • 摩利支天山へ登頂

摩利支天乗越という分岐を過ぎると、火山らしいゴツゴツとした岩稜帯が続いていきます。左手に目をやると、残雪と火山地形が織りなす、荒々しくも神秘的な御嶽山上の世界が広がっていました。この時期しか見られないゼブラ色の山体に目を奪われます。


そして少しスリリングな稜線をつたって山頂へ。途中、どこが正規ルートか分からなくなり、残雪の方へ行ってしまう可能性がありますが、そのまま進むと滑落のリスクが上がるので注意が必要です。


登山スタートから約5時間、御嶽山ドラゴンアイを眺めて、標高約3,000mのいただきに登頂!感動の御嶽登山になりました。

原生林に湧く「濁河温泉 市営露天風呂」へ

  • 原生林に抱かれるような秘湯入浴

下山後に濁河温泉へ浸かれるという楽しみも、小坂口(濁河温泉)ルートで御嶽山を目指す魅力の一つ。定番は、登山口から車ですぐの場所にある「濁河温泉 市営露天風呂」です。


露天風呂のみの浴槽はかなり広く、泉質は三大美人泉質の一つに数えられる炭酸水素塩泉 (ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉)で、ドバドバと源泉掛け流しで供給されています。原生林に囲まれる非日常なロケーションで、泉質抜群のお湯で癒されることができますよ。


いかがでしょうか?やや玄人向きの内容だったかもしれませんが、龍の瞳が開眼する5月下旬〜6月上旬に、ぜひ御嶽山登山を計画してみてください!

この記事のレポーター

土庄雄平
土庄雄平
1993年生まれ、愛知県豊田市出身。会社員のかたわら、山岳自転車旅ライターとして活動する。飛騨地方の雪山が大好物。春は北アルプス麓の桜に見惚れ、夏は清流と瀑布に涼み、秋は霊峰白山の紅葉に抱かれる。

記事一覧

初心者にも最適!​​岐阜県の絶景・登山スポット10選 美濃から北アルプスまでご紹介
初心者にも最適!​​岐阜県の絶景・登山スポット10選 美濃から北アルプスまでご紹介
more
地元ライターおすすめ!岐阜の雪山登山スポット4選。冬の絶景・霧氷を愛でる山旅
地元ライターおすすめ!岐阜の雪山登山スポット4選。冬の絶景・霧氷を愛でる山旅
more
「この道、バイクで走りたい!」四季折々美しい、岐阜の道5選
「この道、バイクで走りたい!」四季折々美しい、岐阜の道5選
more
雪見温泉とここだけの絶景が待つオフシーズン!冬の奥飛騨ならではの魅力と楽しみ方をご紹介
雪見温泉とここだけの絶景が待つオフシーズン!冬の奥飛騨ならではの魅力と楽しみ方をご紹介
more

関連記事

いま読まれている人気記事

センスの良いお菓子で喜ばせたい!岐阜の今っぽい手土産10選
センスの良いお菓子で喜ばせたい!岐阜の今っぽい手土産10選
昔から定番の岐阜の手土産もいいけれど、友人や取引先など大切な人への送りものをするからには、最新でセンスの良いものを選びたいですよね。岐阜では現代のニーズに合わせてアップデートされた老舗菓子店のお菓子や、新進気鋭の新店などが続々と誕生しています。今回はその中から特におすすめの10商品をご紹介します。
more
飛騨高山ご当地グルメ!~高山ラーメン(中華そば)6選~
飛騨高山ご当地グルメ!~高山ラーメン(中華そば)6選~
国内屈指の観光地、飛騨高山を訪れたら、絶対におさえておきたいのがご当地グルメの「高山ラーメン(中華そば)」です!

地元民には昔から「中華そば」や「そば」という呼び名で親しまれ、日常的に食べられているご当地ラーメン。人気アニメ映画『君の名は。』の中で、主人公達が「高山ラーメン」を注文していたことから注目が集まり、観光客や県外のお客様には「高山ラーメン」という呼び名が浸透していったとの情報もあります。
とは言っても、「高山ラーメン」を提供している老舗店のほとんどが「中華そば」とのれんを出しているため、お店を探す際はご注意ください。

飛騨高山にたくさんある「高山ラーメン」店ですが、馴染みのお店を決めてしまうと、どうしてもそこへ通ってしまいがち…(筆者である私は、家族の影響もあり子供の頃から老舗店「まさごそば」一択でした)。今回は馴染みのお店から飛び出して、私が実際に食べ歩いたオススメ店を6店ご紹介します!(個人の感想です)

この記事内に掲載されていない、おいしいお店はまだまだたくさんありますので、イチ参考としていただき、お好きな「高山ラーメン」食べ歩きを楽しんでください!
more
冬の飛騨高山 お出かけスポット10選!
冬の飛騨高山 お出かけスポット10選!
冬の飛騨高山には、冬季限定の絶景がいっぱい!厳しい寒さと人の温かさが生み出す、情緒あふれる景色をぜひご覧ください。
今回は高山市内7ヶ所と、隣接する飛騨市、下呂市、白川村からそれぞれ1ヶ所ずつ、オススメのお出かけスポットをご紹介します!
飛騨の冬はとても寒く雪深いので、防寒対策を万全にして、冬ならではの飛騨をご堪能ください。
more

オススメのPick Up 記事

雪見温泉とここだけの絶景が待つオフシーズン!冬の奥飛騨ならではの魅力と楽しみ方をご紹介
雪見温泉とここだけの絶景が待つオフシーズン!冬の奥飛騨ならではの魅力と楽しみ方をご紹介
日本屈指の温泉湧出量を誇っている奥飛騨温泉郷。北アルプスの山々に抱かれた秘境にあり、季節ごとに豊かな表情変化がを見せてくれます。中でも冬は一面の銀世界が広がり、他の季節では味わえない特別な体験が待っています。雪見温泉で心身ともに温まりながら、ここだけでしか見られない絶景を堪能してみませんか?今回は、冬の奥飛騨だからこそ味わえる楽しみ方と、その魅力を余すことなくご紹介します。
more
絶景!夜の東光寺「秋の特別拝観ライトアップ」
絶景!夜の東光寺「秋の特別拝観ライトアップ」
「東光寺」は、500年以上の歴史を誇る臨済宗の禅寺です。
境内では「ドウダンツツジ」と苔庭が美しく四季折々の景観を彩り、特に「ドウダンツツジ」が真っ赤に色づく紅葉シーズンは多くの方で賑わいます。

現在、東光寺では「人が行き交うお寺」を目指して、様々なワークショップや企画が開催されています。今回は、昨年から開催されている「秋の特別拝観ライトアップ」の様子を紹介させていただきます。


【東光寺】
◆住所:岐阜県山県市小倉618-41
◆電話番号:0581-36-3005
more
岐阜県の最南端!海津市で水の歴史にふれる旅
岐阜県の最南端!海津市で水の歴史にふれる旅
岐阜県の長良川沿いに車を南へ走らせると、河口に近づくにつれてどんどん川幅が広くなります。その先はもう三重県。お隣は愛知県です。

心地よい風が吹くと川面にさざ波が立って、陽の光がキラキラと反射します。

私たちがこの穏やかな景色を楽しめるのは、先人達のお陰と言っても過言ではありません。
今回は、水との闘いをへて水との調和をめざす岐阜県海津市をご紹介します。

more