YAMAP新道が誕生!秋の飛騨「天蓋山」登山体験記
- 土庄雄平
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想いがつながって誕生「YAMAP新道」
天蓋山を目指す新たな登山道「YAMAP新道」が完成したことで、山之村牧場を起点として一周約8.8km/4時間40分の周回ルートが出来上がりました。もともと天蓋山登山道の登山口には村の顔でもある山之村キャンプ場があったのですが、キャンプ場の休止に伴って地域の活気も減少。「このままではいけない!」と奮起した地元ボランティアの努力により、新たな登山道が整備されることに。最終的には、登山地図アプリ『YAMAP』にて登山道整備のツアー参加者を募り、自然を愛する登山愛好家たちの手が加わって新道が開通したのです。
天蓋山登山の魅力
次に「YAMAP新道」が完成したことで、天蓋山登山にどのような魅力が加わったか?その魅力を簡単にご紹介したいと思います。
おもてなしを感じる登山道
まず最初にお伝えしたいのが、おもてなしを感じる登山道です。スタートとなる山之村牧場の園内から、道に迷わないように何度も標識が現れます。道中の急斜面には階段やロープなどが設置され、一つ一つ丁寧に整備されたことが伝わってきます。また道中のポイントの名称もユニークで、中には地元の小中学生のメッセージからエールをもらえる場所も。郷土の里山らしいほっこりとした登山を楽しめます。
展望スポットまででも楽しい
従来からある天蓋山登山道と新たに完成したYAMAP新道のいずれも、山頂までの間に展望スポットを有しています。それが雀平(標高1,380m)とヤマップ平(標高1,290m)です。それぞれ登山口から片道1時間半ほどで、山頂まで行かずとも手軽に北アルプスの絶景パノラマが味わえるのも魅力と言えるでしょう。登山者の体力や時間によって以下の3つのルートを選択することができます。
山之村キャンプ場⇄雀平 4km/2時間35分
山之村牧場⇄ヤマップ平 5.5km/3時間
山之村牧場→ヤマップ平→天蓋山→雀平→天蓋山登山口→山之村牧場 9km/4時間40分
下山後の美味しいご飯&観光
山之村地区を代表する観光施設「山之村牧場」を起点にすることもあって、登山後のお楽しみも欠かせません。名物のソーセージバイキングやソフトクリームを味わえます。また北アルプスを見渡しながらの乗馬体験や牧場見学も楽しいです。周回コースの場合、道中でジビエをいただける「りょうし食堂」に立ち寄るのもオススメ!山之村をフルコース的に楽しむには、天蓋山登山は最高のアクティビティです。
情緒に富んだ周回コース
山を歩き慣れた登山愛好家や玄人の方にとって嬉しいのは、やはりYAMAP新道の完成によって、天蓋山を周回可能になったことではないでしょうか。往復が変わるだけで、見られる景色や得られる情緒、そして下山時の達成感がグンと変わってきます。一言で表現するなら、YAMAP新道は飛騨の原生の森をめぐる道、天蓋山登山道は北アルプスを間近に感じられる道。次からの登山レポートで詳細にお伝えしたいと思います。
天蓋山周回登山体験レポート
それでは2023年10月中旬、素晴らしい天気に恵まれて「天蓋山」の周回コースを歩いてくることができたので、その様子を簡単にレポートします。
「山之村牧場」からスタート
日が明ける前に名古屋をスタートして3時間ちょっと。飛騨清見ICから朝霧の中、車を走らせて山之村牧場に到着しました。秘境というロケーションの山之村地区ですが、意外にも愛知県からも近いと感じました。山之村牧場の入り口には登山届けポストが設置されています。入山前に記入した登山届を提出しましょう。牧場の営業時間外でも園内は通行可能です。
園内の至るところには標識が設置してあり、スタートから迷う心配はありません。また綺麗なトイレも使用することができるのも嬉しいポイント。朝の清々しい空気を感じながら、遠く顔を覗かせる北アルプス・薬師岳(やくしだけ、標高2,926m)の山容に見惚れます。
飛騨の森を感じる「きこりの飯場」
園内を一番奥までいくと登山道がスタート。気持ちの良い木漏れ日の中、ゆったりと標高を上げていきます。そろそろ山が紅葉を迎える10月中旬ですが、登り始めは緑が美しかったです。10分ほど歩くと、白樺階段が現れます。しっかりと整備されているため、急斜面でも安全に登れるのが嬉しいところ。
続いて現れる厳かな杉並木やヒカゲノカズラが繁茂する道は、さながらもののけ姫の世界のような神秘的な雰囲気を醸し出します。そんな道中に現れる「きこりの飯場」は、かつて焼酎の一升瓶が転がっていたため、「きっときこりがお酒を飲んでいたのだろう」というアイデアから名付けた休憩所。味のある手描きの標識やスポットのネーミングが絶妙です。
元気をもらえる新名所「ヤマップ平」
急な斜面が続くので各所に設置されたロープを掴みながら登っていきます。1200ピークを過ぎて少し下りが入るので脚を休め、再び登ってひのき平に到着したら、YAMAP新道の新名所までもう少しです。そして登山開始から約1時間30分で「ヤマップ平」に到着します。
白樺のイスとテーブルが置かれた高台からは、北ノ俣岳(きたのまただけ、標高2,662m)や黒部五郎岳(くろべごろうだけ、標高2,839m)、笠ヶ岳(かさがたけ、標高2,898m)など北アルプスの名峰を望みます。秋晴れが気持ちよく、まさに隠れ家のような穴場感もある展望所でした。
そばには地元の小中学生によるヤマップ平のお手製看板やメッセージボードも。子供たちの元気いっぱいのエールに励まされ、登頂に気合が入ります。メッセージボードは毎年リニューアルしていく予定。毎年登山をする楽しみの一つとなりそうです。
北アルプスの名峰がずらり「天蓋山山頂」
ブナの細道や千手ブナといった名所を通過しながら、天蓋山山頂を目指します。この箇所がいちばん登山道の整備に苦労を要した箇所。ボランティアの方々の苦労も垣間見えますが、そのおかげもあって、とても歩きやすい道が続きます。紅葉も徐々に色濃くなってきました。山頂直下コルに到着したら、山頂まであと僅か。
そして登山開始から約2時間20分で「天蓋山」に登頂です。最高の天気の中、山頂には素晴らしい絶景パノラマが広がっていました。剱岳(つるぎだけ、標高2,999m)や槍ヶ岳(やりがたけ、標高3,180m)、乗鞍岳(のりくらだけ、標高3,026m)、御嶽山(おんたけさん、標高3,067m)、白山(はくさん、標高2,702m)まで名峰がずらり。実は天蓋山山頂からは11座もの日本百名山を眺めることができるのです。
この日は地元の親子連れのグループで賑わっていました。地域の方に愛されている里山らしいシーンに思わずほっこりします。紅葉と名峰のコラボレーションが素晴らしく、ひたすらに絵画のような風景を前にシャッターを切りました。
紅葉とアルプス展望を楽しむ「雀平」
下山は従来からある天蓋山登山道を使います。この道の目玉は「雀平」。山頂から少し標高を下げた展望所からは、北アルプス・薬師岳や剱岳を間近に感じられます。そして振り返れば、パッチワークのような紅葉に彩られる天蓋山の山肌。YAMAP新道とはまた違った情緒を楽しみながら進んでいきます。
紅葉のトンネルから少しずつ緑の回廊へ。季節の変化を感じられるのも登山の魅力ですね。沢が見えてきたら山之村キャンプ場が近い証拠。4時間15分ほどで下山したら、あとは山之村牧場まで舗装路歩きです。「空が近い!」これも山之村の魅力だと思います。
下山後いただく「りょうし食堂」のジビエ飯
一周登山の完了前に立ち寄りたいのが、地元の方も行きつけの「りょうし食堂」。ジビエ料理を手軽に味わえる名店です。名物は熊カレーと猪汁ですが、なんとミニカレーとミニ猪汁がついた卵かけご飯セットがありました。
山之村産の平飼い卵は濃厚でご飯が進みます。カレーはスパイスが効き、熊肉も柔らかく絶品。猪汁は猪肉たっぷりで、猪肉の美味しさが生きていました。ここに小鉢が付いて税込600円とは思わず目を疑う価格設定。お店の方の人柄や人情味も感じられました。
「山之村牧場」のヨーソフハニーと乗馬体験
山之村牧場に戻ってきても楽しみがあります。その一つが名物スイーツ。中でもイチオシは「ヨーソフハニー」です。その名の通り、ヨーグルトとソフトクリーム、はちみつを合わせた一品。ナチュラルな甘さと爽やかさの中で、地元産のはちみつが絶妙なアクセントになってくれます。
また牧場では乗馬体験を楽しむことも可能です。薬師岳を望みながら、牧歌的風景の中でお馬さんにまたがるのは特別!実はYAMAP新道整備の背景には、このお馬さんたちを守りたいという思いもあるのだそう。「登山者が増えることで、牧場もより賑わっていけば良いな」筆者も切にそう感じました。
天空の隠れ里に泊まる「中井旅館」
日帰りでも楽しめる「天蓋山」登山ですが、せっかくなら山之村に一泊するのも選択肢の一つ。山之村唯一の旅館「中井旅館」では、日本の原風景や里山の暮らしを味わう宿泊体験が待っています。朝夕ともいただけるお母さんの手料理は美味しく、快適なお部屋では団欒のひとときを過ごせますよ。
飛騨市ではレールマウンテンバイクGattan Go!!もあるので1泊2日で飛騨旅を楽しむのも良いですね。玄人向きとしては北の俣岳登山や有峰湖(ありみねこ)散策もオススメです。
いかがでしたでしょうか。今回はYAMAP新道の完成にともなって、魅力の高まっている飛騨の名峰「天蓋山」登山と観光情報をお届けしました。山之村牧場の営業は11月5日までなので間に合う方はぜひ!難しいという方は、ぜひ来年訪れてみてください。