飛騨古川「八ツ三館」宿泊体験記 | 食と温泉を楽しむ。受け継がれるおもてなしの老舗宿
- 土庄雄平
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今回はそんな飛騨古川を代表するお宿「八ツ三館(やつさんかん)」をご紹介!国登録有形文化財のお宿は飛騨らしい建築美が素晴らしく、しっとりとした肌触りの流葉温泉や地場産の食材を生かしたお料理を堪能できます。お宿の方のおもてなしも深く、何度でも泊まりたくなる老舗宿です。
時代とともにある飛騨古川「八ツ三館」
「八ツ三館」があるのは、白壁土蔵街から徒歩5〜10分ほどの古川中心部。荒城川を挟んで、本光寺の真向かいに位置しています。風情ある古川の町並みにとけこむ佇まいが印象的です。
八ツ三館の歴史は、江戸時代末期に遡ります。もともと越中八尾(富山県)出身の三五郎さんが始めたお宿で、出身地の八と名前の三から「八ツ三館」と命名しました。小説「あぁ野麦峠」にも登場し、多くの女子が八ツ三館から野麦峠を超え、信州の製糸工場に出稼ぎに向かったことでも有名です。
高山本線が全線開通してからは宿泊需要が減ってしまうのでは?という懸念から料理旅館に転換し、今日まで飛騨古川を代表する老舗旅館として営まれています。まさに飛騨古川の迎賓館と呼ぶにふさわしいお宿です。
所作も接客も丁寧。感動のおもてなしを体験
「八ツ三館」には数々の魅力がありますが、一度宿泊すると感動するのが女将さんや仲居さんのおもてなしです。チェックインするときには駐車場に行かず、お宿の正面玄関に車を横付けします。すると荷物をお部屋まで運んでくれ、車を駐車場に回してくださるのです。
そして個室に通してくださり、お抹茶とお茶菓子を出していただきました。到着の疲れを心地よい苦味と上品な甘さで癒します。続いて館内の説明を受け、お部屋に案内していただきました。
女性の仲居さんは全員が和服で、すれ違うと必ず挨拶をしてくださいます。食事の時間をはじめとして接客や所作がとても丁寧で、チェックインからアウトまで気持ちよく過ごすことができました。「八ツ三館」が人気の一番の理由は、おもてなしの行き届いた心温まる接客サービスです。
飛騨の匠の息吹を感じられる。端正な和室のお部屋
「八ツ三館」には、さまざまなお部屋タイプが揃っています。2022年11月には特別室(スイートルーム)もリニューアルしました。その中で筆者が宿泊したのは「毘沙門」のお部屋。本間に次の間を配した端正な和室になります。
お部屋は2人では勿体無いほど広く、全て畳の安らぎのお部屋。次の間には机と椅子を配しており、本間には飛騨の匠の趣向が感じられる空間でした。伝統的な調度品も置かれており、レトロモダンな情緒に浸れます。
これほど伝統的なお部屋を残していながら、洗面所や洋式トイレなど快適に宿泊できる設備を整えているところも素晴らしいです。「構造が難しいお部屋でごめんなさいね」と一言いただきましたが、とんでもない!工夫が凝らされたお部屋で大満足のひとときを過ごせました。
心ゆくまで癒される。流葉温泉の大浴場と貸切風呂
「八ツ三館」の浴室は、露天風呂付き大浴場「せせらぎの湯」と貸切風呂「おしどりの湯」の2つ。せせらぎの湯は15:00〜23:00、6:00〜9:00に利用することができ、翌朝男女入れ替わり制、おしどりの湯は貸切利用が可能で、貸切がないときには24時間入れるお風呂となっています。
大浴場に注がれているのは、飛騨市内の流葉(ながれは)温泉から直送した運び湯です。泉質はアルカリ性単純温泉。ツルツルとした肌触りで美肌の湯とも言われています。単純温泉は湯当たりしにくく肌にも優しいので、どんな方でもゆったりと入ることができますよ。
中でもせせらぎの湯では、ぬる湯と温かいお湯を交互につかるのが気持ち良いです。また四季を感じられる露天風呂は日本庭園の趣があります。お風呂上がりは「八ツ三館」の美味しい湧水で喉を潤し、BGMが心地よいお休み処のマッサージチェアで癒されましょう。
極上の食材と味に出会える。板長おまかせの月替わり懐石
「八ツ三館」の一番の楽しみと言っても過言ではないのが、飛騨地方の幸が詰まった月替わりの懐石料理です。北アルプスの山麓で育った飛騨牛や、清流が育んだ鮎に加えて、富山に近い立地も相まって、新鮮なお刺身も味わうことができます。一品一品が素材の美味しさを高めるように考え抜かれており、見た目も美しいお料理ばかりです。
八寸という前菜には、飛騨鰻の実山椒煮や、零余小(ぬかご)宿儺(すくな)かぼちゃの真薯(しんじょ)、鴨の葱油コンフィなど、知る人ぞ知る地場産食材に、板長の遊び心を加えて創作されています。一つ一つ新しい味覚の連続で、食べるたびに満足感が高まります。
お造りには飛騨産のとらふぐやきくらげ。地元の隠れた名物食材をいただきます。鮪はトロと赤身があり、どちらも肉厚で新鮮そのもの。頬が落ちる美味しさでした。
子持ち鮎は卵が詰まった濃厚な味わい。身はホクホクとしており、塩加減も絶妙です。飛騨牛ミニステーキは特製きのこソースで。柔らかく繊維がきめ細かいお肉は、噛むほど旨味が出てくる絶品です。
飛騨産ジャンボなめこや玄米団子は天ぷらで。海老蓑揚はサクサクとプリッとした2つの食感を楽しめます。河ふぐ(ナマズ)のマリネをいただいたら、飛騨ひとめぼれとちりめん山椒、お汁でホッと一息。飛騨漬物もつまみながらご飯が進みます。
飛騨りんごのコンポートや酢ゼリー、飛騨産フルーツホオズキや栗酒ゼリー、柿までデザートも豪華でした。お料理を持ってきてくださる仲居さんの接客も本当に丁寧で、落ち着いた個室で特別な食事の時間を過ごすことができました。
明治の趣がそのままに。八ツ三館の見どころをご紹介!
お宿自体が国有形登録文化財の「八ツ三館」。お宿には見どころが数多くあるので簡単にご紹介したいと思います。まずお宿の顔とも言える正面玄関です。チェックインの時にも、豪壮な数寄屋造りの門に驚きますが、一段と趣が高まるのが夜の時間帯。オレンジ色が灯る玄関越しに眺める仲居さんが歩く姿は、明治を彷彿とさせるノスタルジックな情景です。
次に旅館の歴史を物語る招月楼(本館)の館内になります。吹き抜けの建築は、なるべく明かりを取り入れようとした先人の知恵によるのだそう。小説『あぁ野麦峠』に登場した明治時代そのままの空間が残されています。
空間に加えて、そこに配されている調度品も見応えあり。古き良き日本の文化を大事にしている「八ツ三館」では、古い家具や生活用品も修理して使っているそうです。館内には色々なものが置かれていますが、どれもそこにある存在感を感じさせてくれます。
せせらぎの湯へ行く廊下左手にある、お土産処「ギャラリー蔵」も必見です。その名の通り、蔵を改装したショップになっており、飛騨古川のお土産や名産品が揃っています。八ツ三館が営むチーズ菓子店「二十四」の名物・チーズバターサンドも購入することができますよ。
飛騨の味覚がたくさん。昔ながらの日本の朝ごはんを味わう
夕食と同じ個室で振る舞われる朝食。飛騨地方の伝統食材が揃ったバリエーション豊かな和食となっています。まさに昔ながらの日本の朝ごはんです。郷土料理の朴葉味噌をはじめとしてどれもご飯に合うものばかり。炊きたての釜炊きご飯と一緒にいただきます。
朴葉味噌は少し表面が焦げたら食べ頃。甘辛い香ばしい味噌が食欲をかき立ててくれますよ。飛騨漬物やこも豆腐、えのき茶漬けと和えた飛騨納豆など、シンプルな中に地元の味覚が詰まっているのが魅力です。
天生湿原や天蓋山といった登山やレールマウンテンバイク Gattan Go!!などアクティビティも充実した飛騨古川。身体を喜ばせてくれる美味しい朝食をモリモリ食べて、一日の活力をしっかりと補充しましょう!
※天生峠(国道360号線)は冬期通行止、レールマウンテンバイク Gattan Go!! も冬期は休業となります。公式サイト等を見てご確認ください。
飛騨古川の迎賓館。言葉にできない癒しを得られる名宿
チェックインからアウトまで、ゆったりと安らぐことができた「八ツ三館」。古き良き空間から素晴らしいお料理、温泉に加えて、やはり満足度が高かったのがお宿の方のおもてなしです。所作が丁寧で、いつも朗らかに挨拶をしてくださり、本当に気持ちよく過ごさせていただきました。
それに加えて、私の中で忘れられないのが、お風呂上がりにロビーでうたた寝をしたひとときです。ふかふかの椅子に座って、どこか懐かしい匂いを感じながら、肩の荷を下ろして休んだひとときは、言葉にできない幸せな時間でした。
昔から今に至るまで、飛騨古川を訪れる人の迎賓館となっている名宿「八ツ三館」。五感を通じて記憶に残る宿泊体験が待っているので、ぜひ一度利用してみてください。